葛巻町の「自然エネルギー」見学

                                              会津若松市 新山敦司

岩手県にある「葛巻町」は、人口は約7000人の町ですが、「ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち」として町づくりが行われ、年間55万人も観光や視察に来ているといいます。
小さな町ですが、先進的な活動がされており、何度も行ってみたい町でした。
今回、視察した施設の紹介をします。
1. くずまき型ゼロエネルギー住宅
 ここの特徴は、地中熱ヒートポンプ(9.5kW〜10.5 kW)です。地下25mのところに200mほどのところに採熱管が埋まっています。地中は、夏も冬も 16℃くらいです。その熱を利用して冷暖房に使うシステムです。
 太陽光とは違って、いつでも利用できることがたいへん便利だと思いました。
 地中熱ヒートポンプは、採熱管を埋める必要があるので、新築時の基礎工事で施工すると良いのですが、既存の施設では費用がかかりそうです。 ここでは、25mもの深さがありますが、10m程度でも効果はあるようです。ただ、少し費用がかかるのが難点ではありますが、まさに「自然の恵み 」ですね。
 普及状況はまだまだのようですが、23年からは経産省の補助金もでるようになったyほうなので、今後利用が広がっていくものと思います。
 また、太陽光発電(3.36 kW):自家発電と太陽熱温水器(2.87m3)も設置されており、化石燃料を使わない、ゼロエミッション住宅となっています。
 ここには、宿泊することもできるとのことでした。自然の暖かさ、涼しさを感じてみたいですね。
左は温水パネル、太陽光は見やすいように下に設置 これが地中熱ヒートポンプ
2. 木質バイオマスガス化発電
 葛巻町に豊富にある、森林資源を活用した発電システムです。
 発電量は120kWで、一般家庭40〜50件分の発電ができるプラントです。ここは、月島機械の実験として使われ、その結果を活用し現在広がって いるそうです。
 課題は、多くのチップを必要とし、そのランニングコストが高くついてしまい、現在は休止しているとのことでした。
 ただ、このプラントでは発電だけでなく、熱も利用できます。ここのプラントでは、その熱が利用できていないために割に合わないとの説明でしたが、 お風呂などでも利用できるようになれば、コスト的にも合うようになるともお話しいただきました。
発電ユニット
3. バイオマスガスシステム
 葛巻町は、畜産が盛んな町です。畜産農家から排出される糞尿は、自ら処分しなければなりません。「バイオガスシステム」は、家畜排せつ物など を原料に、熱や電気、有機肥料を回収・有効利用できる、リサイクルシステムです。
 集められた糞尿は、固液分離機を通して液分をメタン発酵槽に投入します。しかし、牛の糞尿だけでは栄養価が少ないので(牛は4つの胃で栄養を 吸収するため効率が良い)、レストランなどから発生する生ごみも混ぜます。(*秋からは、町内の生ごみを回収して投入するそうです。素晴らしい ですね。)
 メタン発酵槽では、約1か月かけてガスを発生させるそうです。
 できたガスは、コジェネユニットで発電します。このユニットは、耕運機のエンジンと同じ要領だそうです。この過程で熱も回収できます。
 また、メタン発酵槽から取り出した消化液は、液肥として還元されます。
 このシステムは、小岩井農場でも稼働されており、そこへはいわて生協の店舗から排出された生ごみが投入されています。
 たいへん広い敷地が必要でありますが、畜産業と合わせた処理ができるとたいへん良いリサイクルループができると思いました。
発酵槽
ガス貯蔵槽 コジェネユニット
4.風力発電所(上外川高原)
 標高1000mの牧場の敷地内に、12基の風車が回っています。その発電能力は年間で一般家庭の16000世帯分にもなります。葛巻町の年間消費電力の約2倍!
 風力発電所を作るための課題は、環境アセスメント、気象状況の調査、送電線の設置、地域住民の合意などです。幸い、この地域には民家がなく、農家の気象データが残されていたこと、送電線があったことなど、好条件だったそうです。
 ただ、猛禽類の捕食場でもあったことから野鳥の会からの反対があったそうですが、建設本数を制限することで、自然とも共存することで合意できたそうです。
 まだ200基以上の設置が可能だとのことです。
 高さ60m、直径66mの風車は圧巻です。風切音が少し気になりましたが、周辺に民家が無ければ問題は少ないかもしれません。心配なバードストライクですが、町の担当者は今のところ鳥の死骸などは見ていないとのことでした。
5.ペレット製造(葛巻林業)
 カラマツ林の多い葛巻町、林業も盛んで紙の原料として木材チップを作って製紙会社に売っていました。しかし、その過程で出る木の皮は不要物として焼却処分されていました。コストをかけて焼却していたものを、有効活用することを考えました。
 30年前からペレットを作ってペレットストーブの燃料として販売されています。
 作り方は、木の皮などを小さく粉砕し、熱を加えて専用の機械で押し出して作ります。熱を加えることでリグニンという成分が接着剤の役割をするそうです。作り方は、RPFの作り方と似ています。
 木製ペレットは、化石燃料の代替燃料として有効だと思います。震災以降、公共施設などでペレットストーブが増えてきています。葛巻町では、老人福祉施設などのボイラー燃料として活用されているそうです。ただ・・・これが燃料卸店を通じて小売店に並ぶと少し高くなります・・・この辺りが普及のためのネックになっているのでしょうか。
 ここでは、焼却灰も農家に使っていただいていたそうですが、放射線量検査をしたら基準を超えるデータがでたようです。ペレットは大丈夫ですが、灰になるとかなり濃縮されるようです。
 また、外材からもセシウム137が検出されたそうです。ただし、セシウム134は不検出・・・ということは、チェリノブイリの放射線の影響だと考えます。
木の皮を小さく粉砕 熱を加えて押し出します
←ペレット
6.集成材製造(高吟製材所)
 集成材というものは、小さな木材を接着剤で張り合わせて大きな木にするものです。
 幅20cmくらい、長さ5mほどの材木を使います。まず、5mほどの木を特殊な機械で四方向をギザギザに切ってつなげます。長くなった材木を、今度は何段にも重ねて立派な材木となります。注文によって長さや太さも調整できるので、たいへん便利です。
 また、強度は1.5倍になることから耐震性も向上するようです。
 コープさっぽろでは、この集成材を使って店舗を建てています。発注者は、個人の家庭より公共施設で木を造って建てたいというところからが多いようです。今後は、震災復興住宅でもつかわれるのではないかと思います。
 気になる価格ですが・・・接着させるために、形を整えたり削ったり、成形したあとでもその修正や研磨作業・・・かなり手間がかかりますが、材料は町内にある豊富なカラマツ。多少ふしのあとがあっても大丈夫・・・意外と安いと驚きました。
 現在、輸入材が増えていますが、それにも対抗できるものだと思いました。
 集成材というと、強度は大丈夫?見栄えは?と思いますが、全然大丈夫です。
こんな小さがのが・・・ こんな立派な材木に!










←つなぎ目、わかりますか。
7.太陽光発電(葛巻中学校)
 葛巻町では、市内の学校などにはほとんど太陽光発電を設置しています。その中で一番大きいのがここです。
 50kwの太陽光発電で、中学校の25%ほどの電力を賄うそうです。もちろん、休みのときは売電しています。
 この地域は雪が心配ですが、少し高い位置にあるので問題なく発電するそうです。夏は、あまり暑いと発電効率も落ちるので、東北では効率の良い発電ができているようです。

葛巻町 クリーンエネルギーへの取り組み
http://www.town.kuzumaki.iwate.jp/index.php?topic=kankyo